最高裁判所第三小法廷 平成6年(あ)777号 決定
本店所在地
名古屋市中村区乾出町二丁目七番地
有限会社邦託商会
右代表者代表取締役
越喜邦
本籍
愛知県一宮市森本四丁目二一番地の一
住居
名古屋市中村区乾出町二丁目七番地 正和ビル三〇三号室
会社役員
越喜邦
昭和五年一月一九日生
右有限会社邦託商会に対する法人税法違反、越喜邦に対する法人税法違反、同法違反幇助各被告事件について、平成六年七月一三日名古屋高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人髙木康次の上告趣意は、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
よって、同法四一四条、三八六条一項目三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 大野正男 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)
平成六年(あ)第七七七号第三小法廷
○上告趣意書
法人税法違反 有限会社 邦託商会
同法違反、同法違反幇助 越喜邦
右両名の者に対する頭書被告事件について、名古屋高等裁判所の平成六年七月一七日付けで言い渡した判決に対して、被告人両名の申し立てた上告の趣意は、左記のとおりです。
平成六年一〇月二〇日
被告人両名の弁護人
弁護士 高木康次
最高裁判所 御中
原判決は、検察官の被告人有限会社邦託商会(以下、単に被告人会社と略称します。)に対して罰金一五〇〇万円・被告人越喜邦(以下、被告人越と略称します。)に対して懲役一年六月及び罰金一五〇〇万円に処するのを相当とする旨の求刑に対して、公訴事実のとおり事実認定した上、被告人会社を罰金一五〇〇万円に処し、被告人越を懲役一年六月・三年間執行猶予と罰金一五〇〇万円・完納できないときは一日一〇万円の割合で労役場に留置する旨言い渡しました第一審判決に対して、被告人において控訴しましたところ、控訴を棄却する旨を言い渡しましたが、第一審判決と同様、懲役刑のみならず罰金刑について検察官の求刑のとおり、また、罰金刑を完納できないときは一日一〇万円の割合で労役場に留置するとした点において、刑事訴訟法第四一一条第二号の「刑の量定が甚だしく不当であること」に該当しておりますので、到底破棄を免れないものと思料します。
その理由は次のとおりです。
第一 本件犯行、脱税のための隠蔽工作の方法等については、被告人越が主犯ではなくて、共犯者岩田直志(以下、共犯者岩田と略称します。)が主犯であります。
関係各証拠によりますと、主犯は共犯者岩田であり、また、被告人越が税金の「かぶり屋」となったのは、共犯者岩田からの誘いによるものであります上、徹底した隠蔽工作の方法等も共犯者岩田からの指示、指図ないし教示によるものでありますので、被告人会社ないし被告人越には情状酌量すべきものが認められます。
これをみますと、原判決の量刑、特に罰金刑について検察官の求刑のとおり言い渡したのは刑の量定が甚だしく重きに失して不当でありますので、到底破棄を免れないものと認められます。
第二 被告人両名は、未だに税金の一部を納付しておりませんものの、本税と延滞税は納付済みであって、未納付の税金は、被告人越の納付した金員が、起訴された事実に該当する年度以外の税額に充当されておりますため、たまたま、起訴された事実に該当する年度の本税と重加算税となっております。
一 公訴事実(「罪となるべき事実」)の要旨は、被告人会社については、昭和六三年一一月一日から平成元年一〇月三一日までの法人税約六二二五万円を逋脱した事案(昭和六三年度の事案です。)、被告人越については、右同旨(右同。)と共犯者岩田の営む会社(有限会社岩佐)の平成元年五月一日から平成二年四月三〇日までの法人税約一億八九五九万円の逋脱に際して幇助した事案でありますところ、検察官請求に係る平成五年一〇月一四日付け「査察官報告書」によれば、
昭和六〇年一一月一日から平成四年一〇月三一日までの
本税、延滞税、重加算税の大半が納付済み
であって、未納付の税金は、
昭和六三年一一月一日から平成元年一〇月三一日までの
本税の一五一〇万五七〇〇円
重加算税の二一三二万九〇〇〇円
の計三六四三万四七〇〇円であります。
ところで、被告人両名には全体としてみれば、本税と重加算税として計三六四三万四七〇〇円の未納付の税金があることは事実でありますものの、右「査察官報告書」をみますと、逋脱したとされて起訴された公訴事実(すなわち「罪となるべき事実」)に該当する年度は昭和六三年度の事案でありますのに、被告人越の納付した金員を各年度の税金に振り分ける方法について、余りにも恣意的、場当たり的な方法でなされているものと認められますので、逋脱したとされて起訴された公訴事実に該当する年度の法人税は全て納付済みであります。
なお、このことは、右「査察官報告書」によれば、未納付の重加算税については、昭和六三年一一月一日から平成元年一〇月三一日までの税額(昭和六三年度)として記載されて起訴された事実の年度に該当しておりますものの、右項目の上部にある「法人税」と「法人臨時特別税」の項目をみますと、平成二年一一月一日から平成四年一〇月三一日までの「平成二年度」と「平成三年度」の法人税等に充当されております上、その額も未納付となっている本税と重加算税以上の税額が充当されておりますことなどから、明白であります。
二 被告人越は、前記のとおり、起訴された事実以外の年度に該当する本税と重加算税のみが未納付の状態でありますところ、現在の不況時であるため、営業も中断している状況であります上、被告人越の営む株式会社「大恵産業」の所有する土地も売却できず、また、他人に貸した金を請求しても返還して貰えない状況でありますので、本来は起訴された事案ではない年度の税額に充当されたため、本件事案の本税と重加算税を納付できない状況であります。
しかし、間もなく経済状況も好転するやに漏れ聞いておりますので、その際には、営業をすることによる利益金、貸金の返済金、土地の売却金から即座に未納付の重加算税を納付する決意であります。
三 これをみますと、原判決は、量刑、特に罰金刑について検察官の求刑のとおり言い渡した第一審判決を是認したのですから、刑の量定が甚だしく不当であり、到底破棄を免れないものと認められます。
第三 被告人越は、高齢であるばかりか、病歴もあります。
被告人越は、六四歳という高齢であるばかりか、「脳梗塞」を患ったという病歴もあって、現在においても、「脳梗塞」の後遺症で言語に若干の障害を残している上、「脳梗塞」が再発ないし病状悪化するかも知れない状況でありますので、現在においては未納付の本税と重加算税の納付、罰金刑の納付もできない状況でありますところ、原判決が第一審判決を是認したのは、被告人越に言い渡した罰金刑一五〇〇万円に相当する金員を納付できなかった際、被告人越においては、一日一〇万円の割合による計一五〇日間という長期間にわたって労役場に留置されることとなって仕舞います。
そうしますと、被告人越は、労役場に留置されていた際に「脳梗塞」の再発ないし病状悪化によって死亡して仕舞うおそれが大であり、原判決の量定が甚だしく不当であることが明白であります。
第四 結論
右のとおり、被告人両名の情状関係についてみてみますと、原判決の量刑は、被告人両名に対する量刑の有利な事情を看過し、不利な事情のみに惑わされて、第一審判決を是認した結果、控訴棄却の判決を言い渡したものでありますので、その量定が甚だしく不当であって、到底破棄を免れないものと認められます。
以上のとおり、原判決は、その量刑甚だしく不当であって、到底破棄を免れず、被告人越の生命の危険を免れるための適正な判決の言渡しを求めて、本件上告を申し立てました次第です。